Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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やのしのとい

矢押の樋

山本 周五郎

Leggi 矢押の樋 (やのしのとい) di 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 14.468 caratteri · 29 schermate

Aozora Bunko

「まことにどうも」梶之助は低く頭を垂れた、「早朝ではあり、人眼にはつくまいと存じて」

「馬鹿なことを申されるな、当お城の内濠構えは、他国のどんな城濠とも違って重要なものだ、それゆえ水の深さ、落口の造りなどは秘中の秘にされている、そのもとの家柄は藩の老職、それらの事情を知らぬ筈はござるまい」

「……はあ、まことにどうも」

「監物どのの留守中、斯様な事が役向へ知れたらどうなさる。家中一統、領民の末に至るまで困窮と闘っている時だ、我儘勝手も程にせぬと申訳の立たぬ事になり申すぞ」

黙って頭を垂れている梶之助を暫く睨めつけていたが、やがて重太夫は土堤を登って立去った。

梶之助はそれを見送ってから、大きな眼をもういちど濠の方へ振向けた。……そして水面の一部を眤と覓めながら、肌着を取って体を拭い、土堤を登って着物を着た。……背丈が五尺八九寸もあるので、袴を着け大小を差すと、いま裸で叱られていた恰好とは見違えるように立派な姿だった。

屋敷へは帰らず、城外へ出た彼は、煎りつけるような日射しのなかを、北見村の豪農吉井幸兵衛の家へ訪ねて行った。

吉井家は土着の豪農で、領内随一と云われる大地主だし、その屋敷へはしばしば藩主が駕を枉げ、また名義だけではあったが士分扱いとして扶持を貰っていた。