Classici giapponesi con furigana
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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Leggi 私本太平記 (しほんたいへいき) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 126.598 caratteri · 254 schermate
乱れた髪や束帯をやや正して、俊基は地上に坐った。そして、内裏の大屋根へ向って、長いこと、ひれ伏した。
「…………」
彼が、どんな心の叫びを、みかどのお座所へ向ってなしていたかは、見ている者にもわからなかった。
ただ、その凄惨な面を流れくだる涙は、心ない検断所の荒くれどもをさえ、しゅんとさせていた。ましてや、人も多いはずなこの宮苑の内である。殿上の眼も幾多、どこかでは、この有様を密と見ていたことでもあろうに。
やがて俊基は、胸を上げて、一ト言、辺りへも聞えるように言った。
「……思い残すことあらじといいたいが、俊基には、そういえぬ。わけて、吉田ノ定房卿にただ一言の怨みも抛てぬこそ無念なれ」
ぬッくと起って、彼は大内の万歳でも叫ぶように、またいった。
「――とはいえ、時は五月だ。若いみどりは萌え止まぬわ。俊基一人亡しとて、天下の夏が後ろ向きするものか。残る方々よ。いよよ強く世に生き給えや!」
とたんに、鬼六が、
「やめろッ」
と、その背を一つどんと突いて、牛でも急くように、追っ立てた。
「ちッ、曳かれ者の小唄など、耳うるせいわえ、さ、歩け歩け」
俊基を拉した一群が、待賢門から出て行ってしまうと、そのあと、大内のそこかしこに、卒然と、泣くような怒るような騒めきが沸いていた。