Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

Leggi 私本太平記(五) (しほんたいへいき) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 252.330 caratteri · 505 schermate

Aozora Bunko

「来たか! 来たのか?」

「いえ」

と春渓尼は、一ばい静かに。

「ごゆるりと遊ばしませ。敵を山門内に見るには、まだ間がございましょう。……オオ死出の道、お淋しそうな。むつらの御方、お妻のお局、常葉の君も、みな私に倣って、太守のおそばにいてさしあげたがよい」

花の輪が、高時をかこんだ。彼女らはそれぞれ泣き乱してはいたが、この期となると、一人も泣いていなかった。春渓尼の唇から洩れる名号の称えに和しながらみな掌を合わせた。

するとその中のまだ十六、七にすぎぬ百合殿の小女房が「皆さま、おさきに!」と、まっ先に刃でのどを突いて俯っ伏した。その鮮紅に急かれて、高時もがくと頸を落し、そして脇腹の短刀を引き廻しながら、

「尼前……。これでいいか。高時、こういたしましたと、母御前へ、おつたえしてくれよ。よう、おわびしてくれよ」

と、かすかな息で言った。

たちどころに、春渓尼のまわりは、すべて紅になった。高時に殉じて次々に自害して行った局たちは血の池に咲いた睡蓮みたいに、血のなかに浮いた。

そのほか一門三十四人。譜代の側臣四十六人。すべて北条氏の門葉二百八十三人、みな差し違えたり、腹を切った。