Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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かがりびのおんな

篝火の女

吉川 英治

Leggi 篝火の女 (かがりびのおんな) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 27.727 caratteri · 56 schermate

Aozora Bunko

(それは、何よりの品)

と、三郎はよろこんで、携えて帰ったのである。そして、後に届いた彼女への便りには、

――お身の唇に濡れたることもある笛と思えば、わが唇の触るるごとに、音もおののき、身も慕わしゅうおののき候て。

などと書いてあった事もある。

云う迄もなく、八雲の思慕も同じだった。いや、女ごころは、外にあらわさないだけに、もっともっと、埋め火のようにつよいものがあったかも知れない。

所が、その誓いは、果されなかった。

なぜならば――

まず第一に、北条家の主君、氏政がゆるさなかった。越後の上杉家とは、それから間もなく、上野国の国境で、小競あいがあり、甲州の武田信玄は、久しく鳴をひそめていた鼓を鳴らして、

(わが甥、氏政のために)

と出兵の口実を藉りて、上杉勢の退路を断ち、沼田、吾妻、碓氷の各所で、烈しい合戦が繰りかえされて来たのである。

甲斐の武田信玄は、小田原の北条氏政にとっては、母の弟にあたるので、この叔父は、天文十六年の冬以来、越後の上杉謙信と干戈を交え始めてから、互いにその領土を侵したり侵されたりしつつ、幾度か川中島に両軍から出張って雌雄を決しようとしたり、また幾度か和睦を議しては和せずに立ちわかれて、宿命的に、越後と睨み合っている仲なのである。