Classici giapponesi con furigana
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うつくしきつきよ
美しき月夜
宮本 百合子
Leggi 美しき月夜 (うつくしきつきよ) di 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 9063 caratteri · 18 schermate
Wに腕を扶けられながら、彼女はまたちょっと頭を傾けて彼方に流眄(ながしめ)を与えると、そのまま良人の自信に絶対の信を置いたような歩調(あしどり)で動き出した。そして、ファミリアな無関心の二三歩を踏んで、その次を運び出そうとした瞬間、彼女は小さい声で、
「おや」と云いながら、前へ行こうとした良人の腕を押えた。
「どうした?」
「ちょっと……」
マージーは、彼に委せた右の腕にグッと力を入れながら、体を浮かせるようにして、不自然な形で後方に残った左足を前へ引こうとした。
「どうしたのマージー」
「踵(かかと)が挾まったらしいの」
「踵が挾まった? どこへ」
Wはちょっと小戻すると、さながら落した手巾(ハンカチ)を拾おうとするより、もっと落付いた何でもないふうで彼女の華奢(きゃしゃ)な、白い長靴の上に身を屈めた、この刹那、彼の脳裡では、妻の靴の踵が線路と板との間に喰われたその事実と、前後に連関した何事をも考えることができなかった。今、マージーの動けなくなった、同じ線路の上を、猛烈な勢で突進している列車の薄黒い連鎖と、このことの間には、その瞬間何の連絡をも取っていなかった。