Classici giapponesi con furigana
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だっせんむすこ
脱線息子
佐々木 邦
Leggi 脱線息子 (だっせんむすこ) di 佐々木 邦 (ささきくに) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 108.293 caratteri · 221 schermate
或日この兄さんが見舞いに来ていた時、もう大分元気づいた清次郎氏が甚だ奇妙な現象を起した。三十年間貞子夫人の圧迫に甘んじて唯々事勿れ主義を取っていたこの温厚人が、
「婆、婆!」
と口走ったのである。兄さんは驚いて、
「おい/\、清次郎」
と注意した。
「何です?」
「お前は何うかしたのかい?」
「いゝや」
「でも、今変なことを言ったよ」
「何にも言いはしませんよ。うつら/\考えごとをしていたんです」
と松浦さんは煩さそうに答えて寝返りを打った。
「然うか。俺の耳の所為だったかな」
「いゝえ、確かに申しましたわ。婆、婆と申しましたわ」
と貞子夫人は聞き洩らさなかった。
「いや、はゝあ/\と笑ったんでしょう。病人に笑われるのは気味の悪いものです」
と兄さんは取り繕ったが、未だ具合が悪いので、
「ねえ、看護婦さん」
と加勢を求めた。
「さあ、何うでございますか知ら」
と看護婦はかゝり合いになっては詰まらないから俯向いてしまった。もう一月余りになるので、奥さんの御気象を能く呑み込んでいる。
「いゝえ、婆々と二声申しました」
「はゝあとも聞えたようだし、婆とも聞えたようだし……」
「私のことを申したんでございますよ」