Classici giapponesi con furigana
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むし
虫
江戸川 乱歩
Leggi 虫 (むし) di 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 44.053 caratteri · 86 schermate
運転台の床で氷がとけて、彼の靴の底をベトベトにぬらした時分、彼は一軒の大きな酒屋の前を通りかかって、そこの店に三尺四方位の上げ蓋の箱に、鹽が一杯に盛り上っているのを発見すると、又車を降りて、店先に立った。だが、不思議な事に、彼はそこで鹽を買う代りに、コップに一杯酒をついで貰って、車を止めたのはそれが目的でもあったかの様に、グイとあおった。
何の為に車を走らせているのか、分らなくなってしまった。ただ、何かにウオーウオーと追駈けられる気持で、せかせかと町から町を走り廻った。呑みつけぬ酒の為に、顔がかっかとほてって、肌寒い気候なのに、額にはビッショリ汗の玉が発疹した。そんなでいて、併し、頭の中の、彼の屋敷の方角に当る片隅には、絶えず芙蓉の死体が鮮かに横わっていた。そして、その幻影のクッキリと白い裸体が、焼け焦げが拡がる様に、刻々に蝕まれて行くのが、見えていた。「こうしてはいられない。こうしてはいられない」彼の耳元で、ブツブツブツブツそんな呟きが聞えた。
無意味な運転を二時間余り続けた頃、ガソリンが切れて、車が動かなくなった。しかも、それが丁度ガソリン販売所のない様な町だったので、車を降りてその店を探し廻り、バケツで油を運搬するのに、悲惨な程間の抜けた無駄骨折りをしなければならなかった。