Classici giapponesi con furigana
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へんさいじょき
貢太郎見聞録
田中 貢太郎
Leggi 貢太郎見聞録 (へんさいじょき) di 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 29.162 caratteri · 59 schermate
小さい橋の袂に一台のポンプがいて、川の泥水にゴム管を浸してそれを注いでいたが、すこしの効力があるとも思われなかった。
砲兵工廠の市兵衛河岸に寄った方の三層の建物に、新しく火がかかっていた。その火の中から爆弾の音のような音が続けさまに起った。私たちは甲武線の汽車の線路に這いあがった。神田方面から飯田町にかけて一めんの火の海となり、強い風がその焔を煽って吹きつけていた。まだ火のかからない飯田町三丁目の電車停留場のあたりで、焔を浴びてあちらこちらする人びとの容が人形のように小さく見えた。空も遠くの方も濛濛たる煙に覆われて、四辺は気味悪く黄濁して見えた。いくらか遠退いて来たが、地の震えは歇まなかった。私はまだ何かしら大きな禍が来るような気がして不安であった。
東京全市三分の二を焦土と化した猛火の煙は、二つの大きな入道雲となって天の一方にもくもくと立ち昇っていた。それは白い牛乳色をした気味の悪い雲で、その下の方に鼠色の煙が渦を巻いていた。私はその雲を切支丹坂の樹木の上に見ていた。その雲は延びたり縮んだりした。江戸川の方から入って来る避難者の中には、おりおり振り返ってその雲を悲しそうな眼で見る者があった。