Classici giapponesi con furigana
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へんさいじょき
貢太郎見聞録
田中 貢太郎
Leggi 貢太郎見聞録 (へんさいじょき) di 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 29.162 caratteri · 59 schermate
それは奈良県の寄宿舎であった。寄宿舎の右寄りの上にも二軒の二階家が涼しそうな顔を見せていた。
それはもう十一時を過ぎていた。私は胃の勢いであろう物が喫いたくなったので、早い昼飯をこしらえさしてそれを喫い、裏崖に向った窓の下に据えた机の前に往って、泉筆を持って書きさしの原稿紙に三四字書いたところで、家内があがって来て来客を知らした。
「ワチっていう方が見えました」
私はすぐ大町桂月翁の許に寄宿していたことのある和智君ではないかと思った。で、家内に言いつけてあげてみると、果してその和智君であった。和智君は痩せて背のひょろ長い体に洗い晒した浴衣を着ていた。私は和智君とは一度しか逢ったことはなかった。それはもう六七年前のことであったが、眼玉の出た神経的な特異な眼に記憶があった。和智君はエヤーシップの袋を出して火を点けた。
「大町先生の門口まで往ったが、ひっ返して来ました」
和智君は東京から帰って朝鮮あたりで新聞記者をしていたと言った。
「アメリカへ往くつもりで、渡行免状をもらったところで、親爺が病気になったものですから、よしたのです」
と、和智君が言いかけたところで、どう、どう、という風の音とも遠雷とも判らない物の音がして、その音が地の底に響いたように感じた刹那、家がぐらぐらと揺れだした。