Classici giapponesi con furigana
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はまぎく
野菊の墓
伊藤 左千夫
Leggi 野菊の墓 (はまぎく) di 伊藤 左千夫 (いとうさちお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 13.907 caratteri · 29 schermate
此家の門を潜り入った時の寂しさが思い出される。それから予に不満を与えた岡村の仕振りが、一々胸に呼び返される。
お繁さんはどうしたかしら、どうも今居ないらしい。岡村は妹の事に就て未だ何事もおれには語らない。お繁さんは無事でしょうなと、聞きたくてならないのを遂に聞かずに居った予は、一人考えに耽って愈其物足らぬ思いに堪えない。
新潟を出る時、僅かな事で二時間汽車の乗後れをしてから、柏崎へ降りても只淋しい思いにのみ襲われ、そうして此家に著いてからも、一として心の満足を得たことはない。其多くの不満足の中に、最も大なる不満足は、此家にお繁さんの声を聞かなかった事である。あアそうだ外の事は一切不満足でも、只同情ある殊に予を解してくれたお繁さんに逢えたら、こんな気苦しい厭な思いに悶々しやしないに極ってる。いやたとえ一晩でも宿めて貰って、腹の中とは云え悪くいうは気が咎める、もうつまらん事は考えぬ事と戸を締めた。
洋燈を片寄せようとして、不図床を見ると紙本半切の水墨山水、高久靄で無論真筆紛れない。夜目ながら墨色深潤大いに気に入った。此気分のよいところで早速枕に就くこととする。