Classici giapponesi con furigana
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うんもへん
雲母片
宮本 百合子
Leggi 雲母片 (うんもへん) di 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 2525 caratteri · 6 schermate
今度もやっぱり我知らず右の方から。母は、背後から傍に来、坐ってじっと私の顔を眺めた。
見ると、母の眼も、明るい日の中であやしく閃いている。
「どうしたの? 百合ちゃん。お前そんなに馬鹿なの? どうしてちゃんといの字位が書けないのだろう」
母の沈んだ、恥しそうな情けなさそうな声をきくと、私は堪らなくなった。私は、筆を紙の上に放り出し、始めはしくしく、やがて声を出して泣き出した。
私は、馬鹿と乞食とが世の中で一番いやな、恥しいものだと思っていた。もうじき学校に行くそのお稽古に書く字が、どうしてだか書けない。字の書けないのはきっと馬鹿だろう。自分もその馬鹿であったのかと、絶望しきって涙の止め途がなかったのであった。
明治三十九年の春、児童心理学をまるで知らない若い感情家の母と、幼い未開人めいたその娘とは、暖い十畳の日だまりで、神の微笑そうな涙を切に流した。
霜のない地面から長閑な陽炎が立つ。
雀が植え込みの椿の葉を揺るささやかな音。程なく私は縁側に出、両脚をぶら下げて腰をかけた。膝には赤い木皿に丸い小さいビスケットが三十入っている。
柱に頭をもたせかけ、私はくたびれてうっとりとし、ぼんやり幸福で、そのビスケットを一つ一つ、前歯の間で丹念に二つにわって行った。