후리가나로 읽는 일본 고전
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いちのくらさわ
一の倉沢
久生 十蘭
久生 十蘭의 一の倉沢(いちのくらさわ)을 후리가나와 함께 일본어로 읽으세요. JLPT N2. 단어를 누르면 뜻이 나옵니다.
N2 · 고급 · 신자체·신가나 · 6,237자 · 13화면
おなじ汽車で来たパアテーは、明日の予定があるらしく、飯盒をしかけて夕食の仕度にかかっている。たいてい察してくれそうなものだがと思いながら、山の家の主人と無駄話をしていたが、黙殺することにきめているふうで、相手にもしない。菱苅はしぶくっていたが、思いきってこちらから挨拶をしかけた。
「私は安一郎の父です。失礼ですが、大須賀さんで……」
色の浅黒いスポーティな青年がゆっくりと床几から立ちあがった。
「どうもそうらしいと思っていたんです。僕は利男の兄です……パアトナーが未熟なもんだから、たいへんなご迷惑をかけることになって、申しわけないです」
曖昧な微笑で受けとめたが、この皮肉がわからないような菱苅でもなかった。大須賀の兄は、お前の伜のような未熟なやつが足手まといにならなかったら、弟は死にはしなかったろうといっているのだ。安一郎は、資質的に山登りなどにはむかない、薄弱な性格をもっていることを菱苅は知っている。ラジオのニュースを聞いたとき、まっさきに頭にひらめいたのは、パアトナーを殺したのは、たぶん安一郎だったろうという暗い思念だった。
一の沢の雪の前面に、一の倉、二の沢、烏帽子沢、本谷と、一の倉沢の魔の岩壁が蒼黝い岩肌を光らせながら空につづく高さで聳えたっている。