후리가나로 읽는 일본 고전
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おぼるるもの
溺るるもの
豊島 与志雄
豊島 与志雄의 溺るるもの(おぼるるもの)을 후리가나와 함께 일본어로 읽으세요. JLPT N2. 단어를 누르면 뜻이 나옵니다.
N2 · 고급 · 신자체·신가나 · 17,690자 · 36화면
「片岡さん、ねえ、片岡さん、片岡正夫さん、」とあたしはあの人の名を呼んだ。それでもまだ足りなかった。あたしは泣いた、笑った。そしてあの人の名を呼び続けた。
あの人の様子はおかしかった。蒼い浅黒い顔をなお蒼くして、机に肱ついてる片手を、縮れ乱れた長い髪の毛の中にさしこんで、口と頬辺とで笑い、きつい眼付をしていた。その手と頭と笑ってる口ときつい眼とが、こわれた人形のかけのように、ばらばらになってあたしの眼にうつった。そして別な声が云っていた。
「喜代ちゃん、もう泣いたり笑ったり、つまらないことは止そうじゃないか。そんな仲でもあるまい。何もかも成行に任せるさ。そして酒だ。酒を飲もう。」
あたしは自分に返った。心が落付いた。ただわけもなくぼんやり微笑まれた。あの人も微笑んでいた。
「そのうち、君と二人で一日ゆっくりどこかへ行こう。」
「ええ、連れてって頂戴。」
そして酒を飲みながら、とりとめもない話をした。来る途中でどんなことがあったとか、知人にどういう面白い男がいるとか、どこそこに旅した時どんな目にあったとか、そんなことをあの人は話した。酒もいつもより多く飲んだ。