후리가나로 읽는 일본 고전
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やつがたけのまじん
八ヶ嶽の魔神
国枝 史郎
国枝 史郎의 八ヶ嶽の魔神(やつがたけのまじん)을 후리가나와 함께 일본어로 읽으세요. JLPT N2. 단어를 누르면 뜻이 나옵니다.
N2 · 고급 · 신자체·신가나 · 160,664자 · 323화면
多四郎は四方を見廻したがグイと懐中へ手を入れた。
「しかし待てよ」と呟くとそっとその手を抜き出した。「急いては事を仕損ずる。あぶねえあぶねえ」
と腕を拱み、権九郎の様子をじっと窺う。
権九郎は多四郎へ背を向けたまま無心に手綱を操っていた。隙だらけの姿勢である。多四郎は四方を見廻した。戦いには地の利が肝心だ。……こう思ったからでもあろう。この時橇は山と谿との狭い岨道を走っている。
いつの間にか空が曇り、一旦止んでいた牡丹雪が風に連れて降って来た。見る見る月影は薄れて行きやがて全く消えてしまった。
雪明りで仄々とわずかに明るい。
この時、多四郎は右の手をまた懐中へ差し込んだが何か確りと握ったらしい。と、じっと眼を据えて権九郎の背中を睨んだものである。
岨道を曲がると眼の前へ広漠たる氷原が現われた。吹雪は次第に勢いを加え吠えるようにぶつかって来る。犬が苦しそうに喘ぎ出した。そうして度々逃げようとして繋ぎの紐へ喰い付いた。とそのつど権九郎の鞭がしたたか背中を打つのであった。
「さあ今だ! さあ今だ!」
多四郎は自分で自分の胸へこう口の中で云い聞かせながらジリジリと前へ寄って行った。