일본어 읽기 연습

후리가나로 읽는 일본 고전

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なつのはな

夏の花・心願の国

原 民喜

原 民喜의 夏の花・心願の国(なつのはな)을 후리가나와 함께 일본어로 읽으세요. JLPT N2. 단어를 누르면 뜻이 나옵니다.

N2 · 고급 · 신자체·신가나 · 152,816자 · 310화면

아오조라 문고

そして今、露次の方に跫音がして、それが玄関の方へ近づいて来ると、彼はハッとして、きき慣れた跫音がその次にともなう動作をすぐ予想した。やがて玄関の戸がひらき、牛乳壜を置く音がする。かすかにかち合う壜の音と「こんちは」と呟く低い声がするのである。彼はずしんと、真空に投出されたような気持になる。微かにかち合う壜の音がまだ心の中で鳴りひびき、遠ざかって行く跫音が絶望的に耳に残る。それは毎日殆ど同じ時刻に同じ動作で現れ、それを同じ状態の下にきく彼であった。だが、このもの音を区切りにやがてあたりの状態は少しずつ変って行く。バタンと乱暴に戸の開く音がして、けたたましい声で前の家の主婦は喋りだす。すると、もう何処でも夕餉の支度にとりかかる時刻らしかった。雨は歇んだようだが、廊下の方に暮色がしのびよって来て、もう展げた紙の上にあった微妙な美しい青も消え失せている。手を伸べて、スタンドのスイッチを捻ればよさそうであったが、それさえ彼には躊躇された。薄暗くなる部屋に蹲ったまま、彼はじりじりともの狂おしい想いを堪えた。ものを書こうとして、書こうとしては躊躇し、この二三年をいつのまにか空費してしまった彼は、今もその躊躇の跡をいぶかりながら吟味しているのであったが、――時にこの悶えは娯しくもあったが、更により悲痛でもあったのだ。