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ああぎょくはいにはなうけて

ああ玉杯に花うけて

佐藤 紅緑

「少年倶楽部」1927(昭和2)年5月号~1928(昭和3)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,617 字 · 250 页

青空文庫

うの花がふたりの胸にたもとにちらりちらりとちりしきる。千三はだまってうつむいていた。

社会のどん底にけおとされて、貧苦に小さな胸をいため、伯父は牢獄にあり、わが身はどろにあえぐふなのごときいまの場合に、ただひとり万斛の同情と親愛をよせてくれる人があると思うと、千三の胸に感激の血が高波のごとくおどらざるを得ない。かれは石のごとく沈黙した。

「ねえ青木君、ぼくの心持ちがわかってくれたろうね」

「…………」

「明日からでも商売をやめてね、伯父さんがでてくるまで休んでね、そうしてきみは試験の準備にかかるんだね、決して不自由な思いはさせないよ」

「…………」

「ぼくはね、金持ちだからといっていばるわけじゃないよ、それはきみもわかってくれるだろうね」

「無論……無論……ぼくは……」

千三ははじめて口を開いたが、胸が一ぱいになって、なんにもいえなくなった。はげしいすすりなきが一度に破裂した。

「ありがとう……ぼくはうれしい」

涙はほおを伝うて滴々として足元に落ちた。足にはわらじをはいている。

「じゃね、そうしてくれるかね」と光一も涙をほろほろこぼしながらいった。

「いいや」と千三は頭をふった。