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ああぎょくはいにはなうけて
ああ玉杯に花うけて
佐藤 紅緑
「少年倶楽部」1927(昭和2)年5月号~1928(昭和3)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,617 字 · 250 页
と声をあげたきりだまってしまった。
「はッはッはッ」と猛太はわらった。が巌の足音を聞いてすぐどなった。
「だれだッ」
「ぼくです」
「巌か、何遍床屋へゆくんだ、いくら頭をかっても利口にならんぞ」
巌はだまって自分の室にはいり机に向かって本を読みはじめた、かれは本を読むと眠くなるのがくせである、いく時間机にもたれて眠ったかわからないが、がらがらと戸をあける音に眼をさますと、客はすでに去り、母も床についたらしい。
「なんだろう」
こう思ったときかれは父が外へでる姿を見た。
「どこへゆくんだろう」
俄然としてかれの頭に浮かんだのは、チビ公の伯父覚平が父猛太をうかがって復讐せんとしていることである、今日も役場をまちがって税務署へ闖入したところをチビ公がきてつれていったそうだ、へびのごとく執念深いやつだから、いつどんなところから飛びだして暴行を加えるかもしれない。
「父を保護しなきゃならん」
巌は立ちあがった、かれは細身の刀をしこんだ黒塗りのステッキ(父が昔愛用したもの)を小脇にかかえて父のあとをつけた。二十日あまりの月がねぼけたように町の片側をうすねずみ色に明るくしていた。