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あなたもわたしも

あなたも私も

久生 十蘭

「毎日新聞」1954(昭和29)年10月29日~1955(昭和30)年3月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,405 字 · 263 页

青空文庫

ボーイが、食事を出してもいいかと聞きにきて、ついでに、卓上灯のスイッチをひねった。その光で、磨ガラスの花瓶のなかに仕込んだスタンド付きの小さなマイクが、シルエットになってクッキリと浮きあがった。

「確度は十分さ。そうあったらという、仮定においてね……ところでウラニウムというやつは……」

そこまで言いかけたとき、坂田は花瓶のマイクのシルエットに気がついて、口をつぐんだ。

卓上灯のそれと見せかけてあるコードのゆくえを、目でたどっていたが、椅子から立つと、坂田は容赦のない顔になって、脇卓のテーブル・クロースをひきめくった。

「テープ・レコーダーか……」

皮肉な微笑をうかべながら、レコーダーと二人の顔を見くらべてから、ツイと手をのばして、スイッチをあけた。

由良と芳夫の会話のつづきが、ショパンの『雨だれ』のメロディに乗って、無類のあざやかさで流れだしてきた。

(おやじは、何十回となく、くりかえして聞く……坂田の言いちがい、……言いなおし……微妙なもののなかから、坂田の弱点を発見するんです……)

才女だけのことはあって、由良は、観念して眉も動かさなかったが、芳夫のほうは、すっかり照れて、赤くなったり青くなったりしていた。