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あなたもわたしも

あなたも私も

久生 十蘭

「毎日新聞」1954(昭和29)年10月29日~1955(昭和30)年3月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,405 字 · 263 页

青空文庫

愛一郎がドアをあけて顔をだした。

「パパ、まだですか? サト子さん、お借りして、いいでしょうか」

「いいとも」

サト子はいそいそと椅子から立上ると、愛一郎と腕を組んで庭へはねだした。

日除の下のテーブルの端に、黒い紗のリボンをつけた小さな花束が一つ置いてあった。

「あの花束、なんなの?」

愛一郎は沈んだ顔つきで、

「あの席は、ぼくの誕生日に、いつも神月さんが掛けていた席なんです」

サト子は急いで話題をかえた。

「でも、カオルさん、いらっしゃるんでしょ?」

「カオルさんはパパと結婚したがっていたけど、もう、あきらめたらしい。有江さんと同じ船でアメリカへ行くんだそうです……ぼく、バカなことをしたばかりに、友だちを二人もなくしてしまった」

そこまで言うと、急に笑いだしながら松林のほうを指さした。

「暁子さん、待ちくたびれて、あんなことをしています」

むこう、松林につづく広い芝生の庭の端で、暁子が舞扇をかざしながら、楽しそうにひとりで踊をおどっているのが見えた。

ねぼけたような鶯が鳴いている。

ウラニウム爆弾だの、死の灰だの、血なまぐさい話をしたあとでは、この山の辺の静けさがなにかありがたくて、サト子は涙を落すところだった。