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あなたもわたしも

あなたも私も

久生 十蘭

「毎日新聞」1954(昭和29)年10月29日~1955(昭和30)年3月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,405 字 · 263 页

青空文庫

「お出かけになる前に、そのことを言っておいてくださればよかった……垣根を越えてはいってきたひとを、近所の方かなんて、思いちがいをすることはなかったでしょう」

「それを言ったら、留守番なんかしてくれないでしょ。そこは掛引よ。それで、久慈さんのお宅、なにか盗られたの」

「なにも、盗られなかったふうよ。久慈さんのお宅って、どのへん?」

「知っているでしょう? いぜん、神月の別荘だった家」

「ああ、そう……神月さん、あの家を売って、東京へ越したんでしたわね」

「それを買ったのは帝銀の沢村さんで、そのあとが、いまの久慈さん」

「神月さんの代には、夏のあいだ、女のひとが大ぜい出入りして、にぎやかな家だったわ」

叔母は、気のない調子で、つぶやいた。

「神月ってのは、手もとに、いつも女をひきつけておかないと、落着けないという男だった……家のつくりにしてからが、そうなの。女たちが忍んで来れるように、みょうなところへ木戸をつけたりして……あれじゃ、空巣だって、はいるだろうさ」

叔母は、なにか考えているふうだったが、だしぬけにたずねた。

「あなた、いま、どんな生活をしている?」

他人のことには、いっさい無関心な叔母が、こんなことを言いだすのは、あやしい。