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あなたもわたしも

あなたも私も

久生 十蘭

「毎日新聞」1954(昭和29)年10月29日~1955(昭和30)年3月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,405 字 · 263 页

青空文庫

横須賀まで送ってくれるつもりなら、ここで待っていて」

そういうと、サト子は、後もみずに石段を駆けあがった。

ほのかな間接照明が、陳列室にたそがれのような、ものしずかな調子をつけ、高低さまざまなケースのなかで、壺や、甕や、水差や、陶碗が、肩の張りと腰のふくらみに、古代の薄明をふくみながら、ひっそりと息づいている。

ケースのうえから、壺の口づくりのぐあいをながめているひとがある。足高のケースにおさまった壺の底づきぐあいを、ガラス越しに、よつんばいになって下から見あげているひとがある。そういう作法が、こっけいで目ざわりで、気が散ってしようがなかったが、そのうちに、まわりの現象が感覚からぬけ落ち、壺とじぶんだけの、しんとした世界になった。

サト子は、ゆっくりとケースをのぞいて行ったが、そのうちに、はっとするような深い色に目を射られて、思わず足をとめた。

おおどかに伸びあがった、無口瓶の荒地のままの膚に、ルリ色とも紺青ともつかぬガラス質のものが、一筋、流れている。

「なんという、いい色」

壺どもの腰の線は、一流のファッション・モデルの腰の線よりも、美しい。それだけでも、おどろかれるのに、このもろいセトモノどもは、サト子の年の、百倍も長く生きつづけてきたのだと思うと、なにか、はるばるとした気持になる。