轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
あめんちあ
あめんちあ
富ノ沢 麟太郎
「改造」1911(明治44)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,594 字 · 83 页
彼はどっしり掩いかぶっている雨催いの空を気に病みながらもゆっくりと路を歩いていた。
そうして水溜のように淡く耀いている街燈の下に立止るたびに、靴の上へ積った砂埃を気にするのであったが、彼自身の影さえ映らない真暗な路へさしかかると、またしても妙に落着きを装うて歩きつづけるのであった。
彼がようやく辿り着いたこの路は、常に歩きつけているなじみの場所である。
そうしてたった今、彼の歩いている左手には、二軒の葬儀社が店を構えている。
しかしいまはそこが見えない。
そうしてその一軒の大きい方の店頭には、いつも一匹の黒斑の猫が頸も動かさずに、通りの人人を細目に眺めながら腹這って寝ている。
彼はその猫の鳴き声を聞いたことがただの一度もない。
若しかしたなら彼女はかも知れない。
たとい彼が路傍の一人の男としても、そうたびたび歩き合わせているうちには、一度ぐらい彼女の鳴き声を耳にしてもいい筈である。
そうして必ず日に一度、彼はその店の筋向いの三角卓子のあるカフェのレコードに聞き惚れて、そこに立ちつくすこともあるからには、その猫の声を味わっていなければならない。
彼は常に思い惑うていることを、またしても気に病むまま想い浮べているうちに、一軒の古本屋の前を通り過ぎていた。