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あめんちあ

あめんちあ

富ノ沢 麟太郎

「改造」1911(明治44)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,594 字 · 83 页

青空文庫

何故なら彼の親友は、そのハガキを読んで苦笑したであろうから――殆ど笑うということを知らない親友を苦笑にしろ笑わせたということは、彼自身の悦でもあった。

彼はそのことを予想してハガキを書いたのであった。

彼はこのような男を未だ嘗て友としたことがない。

というのは、いろいろの意味で言うのであるが、――兎に角、この宿へ来る前、彼は少しは現金を持合せていた。

それは大学ぐらいは普通に卒業出来るだけの金高であった。

ところが、急にその持合せた現金が溶けてなくなるように、何処へかその姿を隠してしまった。

彼は大へんなことになったと心に思いながらも、その行方を捜索しはじめたのであったが、どうしてもその見当がはずれがちであった。

彼は警察へ訴えて見ようかとさえ思案したのであったが、その煩わしさを考えて止してしまった。

それにその証拠になるべきものは、何一つ残っていなかったと言ってもいい――しかしここにその証拠物件となるものがたった一つあった。

それは彼自身の胸のなかに蓄えられていたその最初の金高であった。

それにしてもそれは彼自身の愚かな気持の滓であって、事を暴露する爪の垢ほどのききめにもならないことは、考え惑うことが子供じみているだけに、聞く人にとっては実につまらないことであった。