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あめんちあ

あめんちあ

富ノ沢 麟太郎

「改造」1911(明治44)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,594 字 · 83 页

青空文庫

そうして彼は自分の足が、親友のそれとは反対の方向へ歩みはじめた時、全く別な考えに捉えられていた。

そうして彼の目前には、華かな躁宴の光景が、はっきりとしかも細やかに描き出されていた。

すると彼は現に自分が金の持合せを欠いていることに寂しさを感じた。

ふとこんな考えを逐いかけると、彼は自分の躯の置き場所に苦しむように感じた。

彼は自分の躯が、足の指先きから痺れて来るようにさえ感じた。

そうして今彼が歩いている弓型に撓むその町の通りは、急にその反対の方へ反り返えるように思われた。

彼はそんなとりとめない考えを楽しみながら歩いていた。

そうしてこんなふうに考え続けている一方では、これらの考えを、夕暮時、気まぐれにであるが、反射のために輝やく金色の潮ででもあるかのように思っていた。

それにしても現実の姿を失うこのことが、彼自身には大へんグロテスクな面影のように思えた。

そうして彼はデカダンスのような熱情に煽られて、そんな物象の陳腐な幻想に多分の興味を惹かれてもいた。

その夜、彼は美角夫人を訪ねた。

彼女は生きた良人を持っている未亡人であった。

そうして彼と彼女との関係は、彼女が彼の母親の遠い親族であるというに過ぎなかった。