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あめんちあ

あめんちあ

富ノ沢 麟太郎

「改造」1911(明治44)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,594 字 · 83 页

青空文庫

「宣戦を布告する……どんなものだろう?」と彼が肩をそびやかして威丈高になるのに対して、「お前は馬鹿だ!」と誰かがその声のない言葉を舌の先きでまるめこんでしまった――彼は歩きながらこんなことを繰返し惑うていた。

突然、彼の歩調は乱れはじめた。

彼は息をはずませた。

彼は坂を登りかけていた。

車はためらいがちに進んだ。

彼は見るともなく前方を見ていた。

青沼白心は坂の上で、頭上高く手を打ち振りながら、彼へ合図をしていた。

「君、遅いね、また君は悲しそうな顔をしているよ!」

彼は親友のその合図を彼自身の言葉に飜訳してみた。

その夜、彼は床へ横たわりながら、襖越しに親友と次の会話を取り交した。

「この家は坂の頂上にあるのだね?」

「そうでもないよ、少しは離れてる。

」

「……いまにこの家は坂の上から転落して行くぞ、おれの躯と一緒に……」

彼は最後に自分の胸のなかで思わずも言ってみた。

*

日毎に彼は青沼の学校帰りが待たれると同時に、親友の顔を日の光のなかに見てみたいと思う心が劇しくなりはじめた。

そうして彼は町の方へも出掛けてみたいと時折はひょっくりと思い出すこともないではなかった。