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あめんちあ

あめんちあ

富ノ沢 麟太郎

「改造」1911(明治44)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,594 字 · 83 页

青空文庫

こんな場合、いつも彼には夜の町を彷徨うている彼自身の姿が聯想された。

そうして彼は戸外の光を煩さいまでに浴びているかのように、床のなかで転輾としていた。

しかし彼が親友の家へ来たその翌日から、彼自身の心に求めようとするもののあらゆる機会は失われていた。

「少しは早く床を離れて、そこらを散歩してみてはどうか。

」と、言ってくれる親友の心持は、彼にもよく飲みこめるのであるが、彼は一言、「ありがとう。

」と、言っただけで、口を噤んでしまう。

そうして彼は親友の外出する跫音を、軽く自分の耳にいれながら、彼自身の胸のなかの我と話しはじめるのであった。

「おれは朝起きする、いや、少くとも昼前には起きなければなるまい。

だが、おれはそんな資格などは、疾うの昔に盗み去られてしまった。

おれは自分勝手におれの持っていたものをみな盗み出してしまった。

それでおれは自分で凍氷してしまった。

おれ自身の内も外もいまは冬の最中に閉じこめられてしまった。

そして、おれはおれ自身へ対して力がない。

何故なら、おれは自分の魂をおれ自身で剽竊して、誰かに売ろうとしているうちに、うっかりそれを取りおとしてしまった。