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あるこうぎしょ
ある抗議書
菊池 寛
「中央公論」中央公論社、1919(大正8)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,272 字 · 34 页
と云うことになっても、刑罰の目的は立派に達せられて居るのでしょうか。又囚人が幸福に禁獄され欣々然として処刑されると云うような心持を、典獄なる職務にある人が讃美しても差支えないものでしょうか。禁獄とか死刑とか現世的な刑罰が、宗教の信仰に依って其の効果を滅茶滅茶にされて居るのに拘わらず、その現世的刑罰の執行機関に長たるものが感賞の言葉を洩してもよいものでしょうか。『坂下鶴吉の告白』なる本に依りますと、典獄とか検事とか云う連中が、坂下鶴吉の信仰を獲たことを宛も猫が鼠を取ったのを賞めるように、賞めそやして居ります。国家の刑罰なるものは肉体にさえ課すれば、その囚人が心の中ではその刑罰を馬鹿にして居ようが欣んで居ようが、措いて問わないものでしょうか。犯罪なるものが、被害者の肉体のみならず、精神をもどんなに苦しめるかを考えたならば、囚人が刑罰の為に肉体的にも精神的にも苦しむと云うことが云わば至当な事ではないかと思います。私の如き遺族の数多くが肉親を殺された為に悶々の苦しみに苦しんで居るにも拘わらず、その加害者が監獄の中でも幸福な生涯を送り、絞首台上に欣々然として立つことを、典獄迄が讃美するに至っては被害者なり被害者の遺族なりは一体どう思えばよいのでしょうか。