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あるおとこのだらく

ある男の堕落

伊藤 野枝

「女性改造 第二巻第十一号」1923(大正12)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,585 字 · 27 页

青空文庫

ことに単純なYの、孤独というものをまるで知らないYの、遮断された生活の感想は、特別面白いのでした。

彼は獄中では、ほとんど暴れとおしたということでした。その刑期の最後の日まで彼は「減食」の罰を受けていたのだそうです。しかもその罰は彼がもう三日いなければ、おしまいにはならぬのだと彼はいっていました。

獄中での唯一の彼のおしゃべりの時間は教誨師の訪問を受ける時でした。教誨師は彼をしきりに説き伏せようとしました。が、博学な教誨師がいつも無学なYの理屈にまかされたのです。

「だけんど、俺がたった一つ困ったことがあったんだ。」

彼はそういって私に話しました。

「俺のような無学な者にまけるもんだから、奴よっぽど癪にさわったんだね。ある時来ていうには、『お前は、誰も彼も平等で、他人の命令なんかで人間が動いちゃいけないといったな、命令をする奴なんぞがあるのは間違いだといったなあ。だがねえ、たとえば人間の体というものは、頭だの体だの、手だの足だの、また体の中にはいろいろな機関がはいっている。そのいろんな部分がどうして働いてゆくかといえば、脳の中に中枢というものがあって、その命令で動いているんだ。