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うすゆきしょう

うすゆき抄

久生 十蘭

「オール讀物」1952(昭和27)年1月号~3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,454 字 · 59 页

青空文庫

貧苦に憔れたざまをして、塀の外を通るさえ勘弁ならぬというのに、妹の部屋を見上げるなどは僭越至極。さっそく上の谷戸へ行き、出居の敷莚に、肱枕でひだるそうにうたた寝をしているのをひき起し、言われたとおりの口上を述べると、大炊介という貧郷士は、これは異なことをうけたまわるものかな。この一月、なにかけだるく、一度も府中へ下りたことがないから、邸のそばなどを通りようがない。なにかのおまちがいだろうと白を切る。私も腹をたて、ないどころの話か、妹は貴様の貧相が眼について患いをひきおこし、死ぬほどに悩んでいる。貴様が妹の夢の中へかぶって出てくる南蛮頬とは、これこのようなものだと叩きつけてやると、そやつはニヤリと薄笑って、なるほどよくわかりました。そういうことであれば、かならずお言葉に従いますから、その旨しかと道益殿のご息女にお伝えください。この面甲は、お土産だと思っていただいておきますと、むさんに小狩衣の袖のなかへたくしこんだが、そのざまの鄙しげなこと、眼もあてられぬほどだった。

道益は半眼になって聞いていたが、

「お前がその夢の話をすると、先方はニヤリと笑って、お言葉どおりにするといったのだな」