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うすゆきしょう
うすゆき抄
久生 十蘭
「オール讀物」1952(昭和27)年1月号~3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,454 字 · 59 页
と切りだした。
「みなも知っていよう。信濃の武田四郎勝頼が、穴山梅雪との契約をふいにして、娘を信豊にやった紛れから、武田と穴山が不和になり、来年の正月匆々、勝頼父子は諏訪の上原あたりへ押出す。相模、関東はいまや大乱に及ぶ形勢になっているが、北条の親子はもとより、織田方も徳川もいっこうにお気がつかされぬ。それで、この先月の船で届いたモスケッタ銃だが、火繩をあちこちさせる種ヶ島流とちがい、燧石を使った引落しの式になっている。当座の百梃は、いずれ武田と北条に半々くらいにおさまることになろうが、売物のことだから、いちどよく射ちためしてみたい。ついでのことに、猪狩りでもやらかしたらと思いついた。狩場はほかの場所でもない。山邸の上の谷戸にきめたが」
すると、赤目爛れのすさまじいのが膝を進めて、
「その猪狩なら、われわれもねがうところ。目当ての猪というのは、貧乏烏帽子に、布直衣を着た痩猪でござろうが」
道益は首をひねって、
「はてな、そんな猪が入谷津にいるとは知らなんだ。大方、道六神の化けたのでもあろうか。べつに目当てというほどのものはない。猪えらびは、お前らに任せよう。