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おけらになったはなし

おけらになった話

小川 未明

「赤い鳥」1926(大正15)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,798 字 · 8 页

青空文庫

こうなると、この男のうわさは、世間にひろまりました。そして、平生、男を知っている人々は、安心して家にいることができませんでした。また、取り締まる役人たちは、このままに捨ててはおかれないので、こんどは、どういうようにしたらいいかということを協議したのであります。

広い世間は、だれ一人として、この男を悪者だといって憎み、おそれ、きらわないものがありません。こうなると、男は、思うように牢屋を逃げ出したけれど、自分の身を置くところがなかったのでした。

あちらに隠れ、こちらに隠れしていましたが、捜索が厳重であったために、また捕らえられてしまいました。

「おまえは、魔法を使うというが、こんどばかりは、逃げ出されないぞ。」と、役人はいって、男を、鉄でつくった、狭い牢の中にいれてしまいました。

男は、その鉄の牢の中では、自由に歩くことすらできませんでした。また、指を出すにも出されないように、外部は、金網で張られていたのでした。

もう、こうなっては、赤い舌を出して笑うどころでありません。男は、ただじっとしていました。どんなに寒くても、また、どんなに暑くても、ただ、じっとしていなければならなかったので、さすがに男はいまは後悔したのでありました。