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おけらになったはなし

おけらになった話

小川 未明

「赤い鳥」1926(大正15)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,798 字 · 8 页

青空文庫

もう、すでに世界は、夏から秋にうつりかけていました。空の色は青く晴れて、長くつづく道は、白く乾いていたのであります。

おけらは、あちらの青い空の下に見える街の建物を望んで、自分のすむところをその近くに定めようと思ったのです。とんぼや、はちは、美しい羽を輝かしながら、頭の上の空を自由に飛んでゆきました。おけらは、なぜ自分には、あのような自由に飛べる美しい羽がないのかと怪しみました。そして、途中で水のたまったところに出て、自分の姿を、その水面に映して見たときにびっくりしたのです。

「なんという私は、みにくい虫に生まれてきたのだろう……。」

おけらは、恥ずかしくなりました。しかし、神さまは、これがために、この虫に、反抗心を起こさせるようにはしなかった。そのかわりに、つつましやかな謙遜の心を与えられた。おけらは、どこか、野菜畑か、果樹園のすみに、あまり世間に知られずにすむ、自分の小さな穴を掘ってはいるために、乾いた道を急いでゆきました。――人間が一夜にして、おけらになったというようなことは、ひとり神だけが知り、またこうした奇蹟は、神だけがよくなし得ることでした。