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おさん
おさん
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1961(昭和36)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,128 字 · 66 页
吉原の若い衆の呼び名のようであるが、「中ばたらき」というくらいの意味だろう、いってみれば奥と職人とをかけもちで、茶をはこんだり、弁当の世話をするくらいで、それほど親しく知りあってはいなかった。あとで聞くと、おさんのほうではまえからおれのことが好きで、自分の気持を知ってもらいたいために、いろいろじつをつくしたということだ。そう云われてもおれにはなにも思いだせなかった。ちょっときれいな女だな、くらいなことは思ったろうが、自分が好かれているなどということはまったく気がつかなかった。それが十月十日の晩、ひょっとしたでき心でそうなってしまったのだ。その夜は親方の家で祝いがあった。親方とおかみさんが夫婦になってから、ちょうど十二年めに男の子が生れ、お七夜に親類や組合なかまや、町内の旦那たちや、大茂から出た棟梁たちが招かれた。派手なことの嫌いな親方だが、よっぽどうれしかったんだろう、おれたちはじめ追い廻しの者にまで、八百政の膳が配られ、酒が付けられた。おれはなかまでも酒に強いほうだから、いい気になって飲んでいるうちに酔いつぶれてしまい、眼がさめてみると側におさんがいた。