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おさん
おさん
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1961(昭和36)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,128 字 · 66 页
酔いつぶれたあとの、ほんの出来ごころだった。眼がさめたら側にいたから、ひょいと手を出した。くどこうなんて気持はこれっぽっちもなかった。それがわからない筈はない、わかっていておさんは身を任せた。あいつはまえからおれが好きだと云った。これでもういつ死んでもいいとさえ云った。その気持に嘘がなければ、一年や二年、待っていられないということはないだろう。おれが博奕場へ出入りするようになったのは、そのあとのことだった。それまでは花札にも賽ころにも、手を触れたことさえなかった。おやじが嫌いだったし、博奕のために身をあやまった人間をいくたりも知っていたからである。おれはそれを忘れなかった。仕事があがって手間賃がはいると、それを三つに分ける、一つはくらしの分、一つは雑用、残った分だけ博奕をした。負ければそれっきり、他の二つの分には絶対に手を付けないし、勝ち目にまわったときでも倍になったらそこでやめる。どんな鉄火場でもそれでとおした。死んだ親たちの気性が伝わっているのか、それ以上の欲もかかなかったし、ぼろをだすようなこともなかった。仕事のほうも案外うまくいってた。床の間の仕事は上方のほうが本元で、いい職人も少なくないが、型にはまったことしかしないためだろう、おれの江戸ふうな仕上げはかなり評判になった。