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おさん

おさん

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1961(昭和36)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,128 字 · 66 页

青空文庫

参太は膝の上の手をちょっと動かした。女は障子を閉めて去った。

彼はちょっと迷ってから、ふところ紙を一枚取ってひろげ、巾着の中から小粒を一つ出して包んだ。それを敷蒲団の下へ入れ、掛け夜具を捲って横になった。火鉢の火が消えていると知ってから、夜気の寒いことに気がついたのだ。夜具を顎のところまで引きよせて、参太は天床を見まもった。雨漏りの跡のある煤けた天床で、行燈の光がその一部分をぼっと明るく染めていた。――二つ三つはなれた座敷で、笑い声が聞えた。夕方に来た四五人伴れの客である。この土地の者で、なにかの寄合の崩れだとか云ったが、みんな酔っていて、ばかな声で代る代る唄をうたっていた。一刻ばかりまえから静かになり、帰ったのかと思うと、ときどき笑い声が聞えて来る。参太はすぐに「やっているな」と直感した。どうせ友達同志の一文博奕だろう、こっちは鉄火場にも出入りするからだであるが、他人のこととなると、たとえ一文博奕でも背筋へ風がはいるような、不安な、おちつかない気分におそわれるのであった。

参太は眼をつむった。向うの座敷がまたしんとなり、眼の裏におさんの姿がうかんできた。