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おさん
おさん
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1961(昭和36)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,128 字 · 66 页
一の六
――無縁墓は隅のほうにあった。土饅頭だけで墓標もなく、卒塔婆がざっと五六本立っていた。参太は墓を一とまわりしたが、ふと足もとの地面に、なにか眼を惹くものがあるようなので、注意して見ると、小さな花が咲いているのに気がついた。そして、それがひるがおの花だとわかったとき、彼はどきんと胸を突かれたように感じ、かなり長いあいだ、口をあいたままでぼんやりとその小さな花を見おろしていた。
一の六
ありがとう、覚えていてくれたのね。おれは無縁墓の前にしゃがみ、摘み取ったひるがおの花を一輪、黒い土の上に置いた。あんたがその花で怒ったんじゃないってこと、いまのあたしにはわかるのよ、でもあんたはいっちまったわね。おれは合掌しようとしたが、できなかった。ただ頭をさげ、眼をつむって、勘弁してくれと心の中であやまった。あんたはいてくれなくっちゃいけなかったのよ、あたしそう云ったでしょ、あんたに捨てられたらめちゃくちゃになっちまうって、あたし泣いてあんたに頼んだ筈よ。覚えてるよ、しかしおれはおまえを捨てたんじゃあない、きっと帰って来ると約束したし、帰って来るつもりだったんだ。あんたはあたしを放しちゃあいけなかったのよ、あたしのからだの癖を知っていたでしょ、あんたはあたしがこういうからだに生れついたことを、仕合せなんだって云ったわね、こういう