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おさん
おさん
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1961(昭和36)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,128 字 · 66 页
一の二
一の二
あたしおかみさんにして貰おうなんて思わないのよ、とおさんは云った。夫婦になろうと云いだしたのはおれのほうだ、あとでわかったのだが、おさんには親許で約束した男があり、その年が明けると祝言をする筈になっていた。おれは知らなかったからおさんを説き伏せたうえ、親方の許しを得て世帯を持った。牛込さかな町の喜平店といい、路地の奥ではあったが一戸建ての家で、うしろが円法寺という小さな寺の土塀になっていた。まだとしも若いし、かよいの職人で一戸建ての家は贅沢だが、おれにはそのほうがいいという勘があったし、二十日と経たないうちに、自分の勘の当っていたことがわかった。それはそもそもの初めから、つまり、初めておさんを抱いたときからわかっていた、と云うほうが本当だろう。おれを夢中にさせたおさんのからだは、いっしょになるとすぐに、この世のものとも思えないほど深く、そして激しくおれを酔わせた。誰でもこんなふうになるの、恥ずかしい、どうしてあんなになるのかしら、女っていやだわ、とおさんが云った。それは自分で気がついたからだ、誰でもというわけじゃない、おまえのからだがそう生れついたんだ、とおれは云ってやった。