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おにぎりのあじ
おにぎりの味
中谷 宇吉郎
「暮しの手帖」1956(昭和31)年9月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,220 字 · 3 页
お握りには、いろいろな思い出がある。
北陸の片田舎で育った私たちは、中学へ行くまで、洋服を着た小学生というものは、誰も見たことがなかった。紺絣の筒っぽに、ちびた下駄。雨の降る日は、藺草でつくったみのぼうしをかぶって、学校へ通う。外套やレインコートはもちろんのこと、傘をもつことすら、小学生には非常な贅沢と考えられていた。
そういう土地であるから、お握りは、日常生活に、かなり直結したものであった。遠足や運動会の時はもちろんのこと、お弁当にも、ときどきお握りをもたされた。梅干のはいった大きいお握りで、とろろ昆布でくるむか、紫蘇の粉をふりかけるかしてあった。浅草海苔をまくというような贅沢なことは、滅多にしなかった。
しかしそういうお握りの思い出は、あまり残っていない。それよりも、今でも鮮かに印象に残っているのは、ご飯を焚いた時のおこげのお握りである。
十数人の大家族だったので、女中が朝暗いうちから起きて、煤けたかまどに大きい釜をかけて、粗朶を焚きつける。薄暗い土間に、青味をおびた煙が立ちこめ、かまどの口から、赤い焔が蛇の舌のように、ちらちらと出る。
私と弟とは、時々早く起きて、このかまどの部屋へ行くことがあった。