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おみな
おみな
「作品 第六巻第十二号」1935(昭和10)年12月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,437 字 · 11 页
血相も変え転々宿をうつしていた。
暫くの音信不通の間に、女は東京を落ちのび、中山道の宿場町に時代物の侘住居を営んでいる。私もうらぶれた落武者の荒涼とした心を懐いて宿場町へ訪ねていった。
女の妹の不注意から、残してきた子供が母の居場所を知ることになった。子供はもう女学校へ間もないほどの少女である。女は子供を棄てたつもりでいたのだ。子供は母をなつかしんで飛んできた。生憎のことに私と少女と時代物の侘住居でかちあった。
私は途方に暮れた。少女は私にどういう感情を懐いているか見当もつかなかったが、元来私は子供の相手が借金取りの応待と同等以上に苦手で、お世辞の言いようがない。
子供が勢いこんで飛びこんできたとき、女の顔色の動いたのは十分の一秒ほどの瞬間にすぎなかった。悲しい決意をかためたことが私に分った。女は私の息苦しさを救うために子供の愛を犠牲にしたのだ。その労力の大きさは私のどんな苦痛にも匹敵するであろうぞと、私はひそかに考えこんだほどであった。子供は泣きだした。母は寧ろ強く子供をたしなめた。母の苦しみを思うと、私は却って子供を厭うた。
子供は自分の歓迎せられぬ立場をやがて諦らめたようであった。