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おもかげ

おもかげ

山本 周五郎

「少女の友」実業之日本社、1942(昭和17)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,242 字 · 21 页

青空文庫

そう仰しゃって、少しのゆだんもお許しにならなかった。そんな時正之助はきまって亡くなったお母さまのおもかげを偲び、「お母さまがおいでなすったら、いちどくらいは褒めて下さるだろうのに――」と思い、どんなことがあっても叔母さまを好きになってはあげないからと考えることがたびたびだった。

正之助が十二歳になった春、お弱かったお祖父さまが、霜の消えるようにしずかにお亡くなりになった。お母さまが亡くなったときはまだ幼かったので、悲しみもそれほどではなく、かえって月日の経つほど悲しみが増すばかりであったが、お祖父さまのときにはずいぶん悲しく、泣いても泣いても泪がせきあげてきて、幾日ものあいだ眼を泣き腫らしていた。叔母さまのおなげきは見るのも辛いほどで、わずかな日のあいだに見ちがえるばかりお痩せになった。そういうなかにもうれしかったのは、二十一日の忌日に、江戸から父が帰っておいでなすったことである。五年ぶりでお眼にかかる父は、いくらかはお老けになったけれど、顔色などはつやつやとしてご健康そうだし、たち居や言葉つきなどはずっと威がおつきになり、いかにも重いお役目にふさわしいお人柄になっておられた。