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おもかげ

おもかげ

山本 周五郎

「少女の友」実業之日本社、1942(昭和17)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,242 字 · 21 页

青空文庫

などという金槐集の歌をくちずさみ、鎌倉の秀でた歌人の心をしのんだりした。

鳥取の城下へ着いたのは三月十日のことだった。叔母さまは一年まえにお別れしたときよりも、いくらかお肥りになったようで、お顔もあかるく、眼も冴えざえとしていらしった。「おとし若なのに、遠い旅をよくご無事でいらっしゃいました――」そういってお褒めになったので、思わず「叔母さまに褒めて頂いたのはこれが初めてですね――」とお答えしてしまった。叔母さまがちょっと悲しそうな笑いかたをなすったので、正之助はいけないことを云ったと思い、すぐに坐り直して、

「叔母さま、正之助をおゆるし下さい、わたくしは考えが足りませんでした、叔母さまが厳しく育てて下さるのを、ただ辛いと思うだけで、叔母さまのお気持を少しも考えませんでした。でもいまではいろいろな事がよくわかりました、叔母さまには本当に済まぬことばかりだったと思います、どうぞおゆるし下さいまし」

「そう云って下さるのはうれしゅうございます。けれど、あなたはまだそのようなことを考えるには及びません、ただ一心に勉強なすって、お国の役にたつりっぱな人になって下さればいいのです」