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おもかげ

おもかげ

山本 周五郎

「少女の友」実業之日本社、1942(昭和17)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,242 字 · 21 页

青空文庫

家族はお祖父さまと、秋代という叔母さまと、それから正之助の三人になっていた。家来たちも多くは父の供をして去ったので、弥兵衛という老家扶のほかに侍が二人、下男とはしためとで五人、それでぜんぶだった。それにお祖父さまは隠居をなすっていたので、たずねて来る客もすくなくいつも人ごえの絶えなかった賑やかな屋敷のなかは、嵐のあとのようにひっそりしてしまい、いままで気づかなかったお祖父さまの咳のこえまでが、いくつもの部屋を越してはっきりと聞えるくらいだった。

母の百ヶ日の忌があけた日、叔母さまは正之助を仏間へつれていって坐った。

「正之助さん、きょうでお母さまの忌もあけました、明日からまたあなたは学問や武芸のお稽古にお通いなさるのです。わたくしは、亡くなったお母さまから、あなたのことをよく頼まれました、きょうから叔母さまを母と思って下さい。お父さまもお留守ですし、お祖父さまはおからだがお弱いのですから、しっかり勉強なさらないと、世間の人に笑われて、お父さまや亡くなったお母さまの恥になります、ようございますか」

叔母さまは仏壇の前でこう仰しゃった。叔母さまはそのとき二十歳だった。