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おもかげ
おもかげ
山本 周五郎
「少女の友」実業之日本社、1942(昭和17)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,242 字 · 21 页
まる顔で、からだつきのふっくりと匂やかな、声の美しいひとだった。「秋代さまの声を聞いていると春が来たようで――」とよくみんなが云っていた。正之助がいたずらをして叱られると、いつもすぐに来てお詫びをして下すったし、「武士の子にはふさわしくない――」と云う父にないしょで、いろいろな玩具を買って下すったこともある。どんなにあまえても、決してすげなくされることのない、やさしい叔母さまだった。けれども、そのとき仏壇の前にきちんと坐った叔母さまは、まるで人が違ったように思えた、言葉つきもきつかったし、正之助を見る眼もとにもなんとなく冷たい色があった。
「それから、これまでお稽古には多助に供をさせましたけれど、召使たちの手が足らなくなっていますから、これからはおひとりでおいでなさるのです」
「でもそれでは、ひら武士(身分の低い者)の子のようにみえますよ」
「あなたの心さえ正しく、しっかりとしていれば、他人にどうみえようと気にかけることはありません。さあ、もういちど仏壇へお香をおあげなさい」
叔母さまのようすがあまり違うので、正之助はなんだか悲しいような気持になり、お香をあげながらふとお母さまのことを思いだした。