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おもかげ

おもかげ

山本 周五郎

「少女の友」実業之日本社、1942(昭和17)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,242 字 · 21 页

青空文庫

二

その言葉を聞きながら正之助はじっと、亡きお母さまのやさしい面ざしを胸に描いていた。

二

冬になってはじめての雪の朝だった。起きたじぶんにはもう高下駄も埋まるほど積って、そのうえになお、さらさらと乾いた粉雪が小やみもなく降りしきっていた。正之助はお稽古にゆく支度をして玄関まで出たけれど、遠い塾までの、困難な道を考えると急にいやになり、「なんだか気持が悪いから――」と云ってやめようとした。叔母さまは元気をつけるように、「出かけてしまえば、少しくらい気分の悪いのはすぐになおります――」と繰返し仰しゃった。しかしそれでも正之助がむずかっているので、「どうしてもそんな我儘を仰しゃるなら――」と云いながら、正之助の腕をつかんで、はだしのまま玄関から門のそとへぐんぐんとひきだした。

「お祖父さま」

正之助は泣きながら叫んだ、それから老家扶の名も呼んだ。けれど叔母さまは少しも力をゆるめず、雪のなかを引きずるようにして、昌源寺の墓地までひきたてて行った。そして正之助を母の墓の前に坐らせ、ご自分も雪のうえにぴったりお坐りになった。

「わたくしは、あなたのお母さまに、あなたがりっぱな武士になり、御国のために役だつ人間になるよう、世話をして下さいとくれぐれも頼まれました。