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おもかげ
おもかげ
山本 周五郎
「少女の友」実業之日本社、1942(昭和17)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,242 字 · 21 页
三
叔母さまは本当に人がお違いなすってしまった。いつかは元のようにおやさしくなるのではないか、どんなにあまえても、決してすげなくされることのない叔母さまに戻って下さるのではないか、正之助はひそかにそう願っていたけれど、叔母さまのようすは少しも元へかえらず、「春が来たような――」と云われたお美しい声までが、冷たく、かたく変ってしまった。そしていつも、きびしい眼で正之助のすることを見まもっておいでになり、ちょっと怠ける風がみえても、「昌源寺の墓地で約束なすったことをお忘れですか――」とお叱りなさるのであった。
二年ほど経った或夏の夜のこと、机に向ってお習字をしていた正之助は、ふとお祖父さまのお部屋で話しごえがするのに気づいた。お祖父さまは怒っておいでなさるようすで、お声がいつもより高かったのである。
「それでは約束が違う。一年のばしてくれというので秋山へそう申したのだ。これ以上待てと云えるものではない、それでは破談にせよと申すもおなじことではないか」
「それでも致し方はございません」
三
ああお嫁入りの話なのだと思い、正之助はじっと耳をすました。
「いったいおまえは秋山へとつぐ気持があるのかないのか、それをはっきり云ってごらん」