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おくみさんとそのしゅうい
お久美さんと其の周囲
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第一巻」河出書房、1951(昭和26)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,369 字 · 149 页
荒れた畑地を耕して麦粥を啜って居た今までに比べれば重三は今の境遇に充分満足して居た。
僅か許りの水を汲んだり火を燃したりする丈で三度の物は好きな丈食べられ、鼻もひっかけられない様だった自分が兎に角、来る者から、
「重三さん、御精が出ますね。
「重三さん、お暇が有ったらお茶でもあがりに行らっしゃってはどうです。
と云われる事は真に気持が好かった。
只、自分がお関の実の子だと云う事の出来ないのは何となし不都合な事の様では有ったけれ共、それとて生れ落ちるとから離れて居たので、はっきりどうと云う程心に銘じて居は仕ないので、矢吹が自分の生れた家だとして置いても差し支えは無かった。
殆ど十位の子供程単純な一色の心を持って居る重三は世の中の不平を知らないで生きて来た。
朝から日の落ちるまで鍬を握って泥掘りをして居た時も之が自分の運だと思って居た。
今斯うして、山田の家の若旦那に成り、重三さん重三さんと云われるのも運だと思って居るから、振り返って見る今までの事が非常に辛かったとは思わないが、今の身分もそうひどく大切では無かった。
けれ共、勿論種々な点で前よりも身体の労働の少くなった事を大変気持好く感じて居た。