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おくみさんとそのしゅうい
お久美さんと其の周囲
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第一巻」河出書房、1951(昭和26)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,369 字 · 149 页
掻き乱されて、一人として静かな我を保って居る者はなかった。
主人夫婦に対する憎しみは喉の張り裂けそうな声となって二階に犇めき上って行った。
或る者は力まかせに階子を足蹴にしたり拳で叩いたりした。
若者共は悪口の種をあさった。
選挙の日、反対党を撲った事
買収仕にかかって失敗した事
その他あらゆるその男の恥辱になる事々を叫びながら、
「殺して仕舞え」の
「覚えて居ろ」の
声をそろえて今にも逃げ路のない二階へ雪崩れを打って躍り込みそうな勢を示した。
あまりの事に暫くの間黙って見て居た娘共は、物凄い叫び声と皆の顔に怯えて、音もたてずコソコソとかたまりあって黒い外へと逃げ出して、息を弾ませながら走り去って仕舞った。
お久美さんは只恐ろしかった。
今にも自分達が殺されてでも仕舞いそうになって、納屋の中に農具と一緒にかたくなって震えて居た。
皆をなだめる筈の恭吉は真先に姿をかくして仕舞って居たし、集まった者の相当な年の者は最初主人が立ち去ると同時に帰って仕舞った。
すべての様子が皆若者達が暴威を振うに適した状態にあった。
互の声と激亢に煽られて急造の机を履み倒したり、キリストの絵を裂いたりして居ても二階からは人の顔がのぞきもしなければコトッと云う音さえもしなかった。