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おてあらい
お手洗
山本 周五郎
「文藝春秋」1964(昭和39)年10月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 1,499 字 · 4 页
芝居を観るのに客席に坐らず、監事室で観るのは本式ではない、と常々思っている。だが、私の場合芝居を観る話はいつも突然にもちあがるので、客席がない。だから監事室で観せていただくほかない。
監事室で観ると具合の良いことには、他の人の迷惑にならずに水割りウィスキーを飲める。その上、客席にいては観ることのできない、高名なる作者や偉い演出家の先生方を眺めることができる。これは私にとって芝居以上に興味がある。
水割りウィスキーとこういった興味にひかれて、芝居を観る時には監事室でみることにしている。
先日も、ある劇場の監事室で、水割りを飲みながら楽しんでいた。ところが何の加減かやたらとねむくなってきた。係の人に頼んで食堂に椅子を並べてもらい、横になることにした。
座の人が心配して、毛布や枕を持ってきてくれた。そこでしばらく仮睡したのだが、このでき事がどこの劇場で起ったのか、後で考えてみても、なかなか思い出せない。
その頃私用もあって京都の南座、名古屋の御園座、新橋演舞場を観て歩いた。だから、たしかにこの三劇場の中の一つでのことなのだが、それがどうにもはっきりしない。