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おてあらい

お手洗

山本 周五郎

「文藝春秋」1964(昭和39)年10月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 1,499 字 · 4 页

青空文庫

通じないからには、その事件の起った所は、京都か名古屋に違いない。

だいいち私は新橋演舞場なら建った時から知っている。私はそう信じていた。

しかし、京都へ同行したS社のN君、名古屋で一緒に芝居を観たA社のK君は、そんな事件はなかったと証言する。

同行の諸君がそばにいれば、「お手洗」を少女にきく必要もないわけだ。そうなれば新橋演舞場しかない。

いったい私はどこの「お手洗」を探してあるいたのだろう。思いまどっていた私はようやく次のことに考え及んだのである。

新橋演舞場にいる案内の少女でも、東京育ちばかりとは限らない。北海道、青森生れの少女もいるだろうし、四国、九州から上京した少女もいるだろう。

それでなくともこの求人難の時代である。

今の東京はいろいろな要素が入りこんできているのだ。言葉にしても関西弁をはじめいろいろなお国言葉お国なまりが入りまじってしまい、こちらの思っていることを正しく相手に伝えるのが、だんだん難しくなってきた。経済成長の歪みとやらがこんな所にもあらわれてきたのだろうか。

そんなことはともかく、人生には時々思いがけないでき事があると今度あらためて感じたわけである。