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おちゃのゆまんぷくだん
お茶の湯満腹談
夢野 久作
「文芸通信」1935(昭和10)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,250 字 · 5 页
ともかくも今一度箸を執って無理やりに嚥下してしまった。
それから頼うだお方の手土産を披瀝されたが、そのうちにどこかの干柿があった。それを見た主人翁は、
「御迷惑か知らぬが、この柿を見ちゃ一服頂戴せずにはおれぬ」
と言うので、手をたたくと次の間から盛装した振袖の美人が現われて、吾々三人に向って両手を支いて淑やかに一礼した。干柿なんて全く余計なものを持って来たものだと、内心怨めしく思っているうちにモウ釜の前で勿体らしいお手前が始まった。頼うだ人が、
「薄茶を……」
と所望したのでその薄茶なるものが一人一人に運ばれたが、主人翁を入れてほかの三人は二杯ずつ飲んだけれども、筆者は頭を左右に振って御免蒙った。柿なんぞ田舎で喰いつけているので珍しくも何ともなかった。後から聞いてみたら、愛想にも一片抓まないと主人と頼うだ御方に恥を掻かせる意味になるものだという。そんな事とは夢にもこっちは知らないのだから仕方がない。早く聞いておれば何の干柿の五つや十ぐらいと思ったがモウ追付かない。
主人翁に見送られて門を出て自動車に乗ると、さすがに主人翁の言い知れぬ平民的な好意ぶりに感謝する気になった。